幸せな一日を彩ることは、
美しい日本の再発見にもつながっている。

Interview

澤村 圭介
ペストリーセクション 統括製菓長

料理上手な母との時間が、
パティシエの仕事に導いてくれた。

料理、洋裁、編み物、パン作り。何をやっても上手だった母。その母と並んでパンやロールケーキをつくった時間が、子どもの頃の自分にとって大切な時間でした。高校生になり、どこでもいいから専門学校に行こうと思っていた時、高校の担任に「調理はどうか」と言われました。先生がなぜそう言ったのか覚えていないのですが、「そうしよう」と思った自分の根っこには、料理上手な母親の存在があるような気がします。

調理の専門学校を卒業した後、27、8歳までにひと通り何でもできるようになることを目指し、ホテル、レストラン、結婚式場、個人店などを次々と経験しました。その後も基本的には2、3年ごとに転職。名の知れたブランドや格のある場所で経験を積みました。八芳園から声がかかったのは、ペストリーセクションの体制を整えるタイミング。八芳園に関する事前知識はほとんどありませんでしたが、初めて庭園を見たときには「東京にこんな場所があったのか」と度肝を抜かれ、宿泊施設だと勘違いして「泊まれるんですか?」なんて聞いてしまったほどでした。そんな始まりから、気がつけば5年以上。自分にとって、キャリアの中で一番長くいる職場です。

ひとりではなく、チームでおもてなしの質を高めるための組織。

八芳園ではウェディングケーキにカフェのシーズナルメニュー、イベントのケータリングと、おそらく年間100以上の新作パティスリーを出しています。自分で手がけるものもありますが、多くは後輩たちに担当を割り振り、出してもらった企画やデザインを一緒にブラッシュアップしていきます。お菓子の世界は華やかでセンスが重視されるように見えて、お出しする施設、営業媒体、価格帯、オペレーション、安定供給できるかという現実的な面も考慮しないとお客様の前にお出しすることはできません。

たとえば「まるごと白桃パフェ」というメニューは、入社2年目のメンバーが必死にもがき、1年かけてやっと世に送り出せた一品。社内外で話題になり、SNSにもたくさんアップされ、成果に結びついたことが上司として純粋に嬉しく思いました。お客様の目に触れない仕事でも、若いメンバーがちゃんと発注から仕込みまでのスキームを組むことができるようになったり、どれだけ忙しくても教わったことをきちんと守ったりしている姿を見ると、自分が何かを成し遂げるよりもずっと大きな喜びを感じます。忙しさにかまけて当たり前のことを怠ると厳しく指摘することもありますが、良いものをつくってきたら必ず褒める。それを繰り返すことで、個々のメンバーのレベルが上がっている実感があります。

「見せる」ことで、「見つけられる」ようになって欲しい。

八芳園が掲げる「日本を、美しく。」というパーパス。それはパティシエである自分にとって、日本各地の生産者の方の食材や器などを用いながら、自分の感性を通して美しいパティスリーを仕立て、お客様にご紹介することであると解釈しています。とはいえ、美意識や企画力というのは一朝一夕に身につくものではありません。全ては常日頃のアンテナの高さと積み重ねです。

私自身は自然の花や緑の色、女性服やネイルデザインのグラデーションや艶からインスピレーションを受けることも。食材を起点に考えることや、器を最初に決めてからその色味や形状に合わせて仕立てることなど、引き出しはキャリアを通じて多数持ち合わせています。着想源が多いに越したことはなく、何よりそれを自分で見つけなければいけない。だからこそ後輩たちにもできるだけ「教える」より「見せる」を意識し、自分の知識、技術、お菓子そのものを共有しながらいろんなことに気づいてもらえるように心がけています。思えばこれは、幼い日に母が私にしてくれたこと。お菓子づくりはこんなに楽しく、こんなにも奥深いものだから。後輩たちがいる限り、まだまだ私の仕事は続きそうです。

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